2017年 ポトチャリ Potočari

まずwikipediaの“スレブレニツァの虐殺”の項をご覧ください。また、アルジャジーラ制作の動画も是非ご覧ください。
個人的には、ようやく第二次世界大戦後ヨーロッパ最大の虐殺事件の現場を訪れることができました。スレブレニツァに一泊しましたので、往路と復路の二度、ポトチャリを歩きました。虐殺事件の詳細はwikipediaを読んでいただくことにして、画像だけご覧いただければ幸いです。40枚あります。
“スレブレニツァの虐殺”には特殊性があります。これが“虐殺”“ジェノサイド”であることに疑いの余地はありません。ナチスドイツのユダヤ人虐殺、オスマントルコ末期のアルメニア人虐殺などは、いわゆる「皆殺し」でした。スターリンによるウクライナ人の大量飢餓死（ホロドモール）、毛沢東による「大躍進」時代の大量飢餓死は、無計画な大量虐殺でしたから、犠牲者は莫大でしたが、皆殺しではありません。
ナチスドイツによるホロコーストは、ドイツ人らしく極めて計画的に「ユダヤ人の諸権利の剥奪」「ゲットーの設置」「労働力の搾取」「労働不能者の処理」、さらに「無差別殺人」へと段階的に行われました。
それに対して、“スレブレニツァの虐殺”に代表されるボスニア戦争における極めて人間的な残虐行為には、ナチスドイツとは異なる計画性と意図が見られます。これ見よがしにレイプが行われました。レイプの被害者を殺した場合もありますが、生存者もたくさんいます。レイプされた後、売られた少女もいます。親たちの目の前で赤ん坊の首を斬り、子供の耳や鼻をそぎました。銃による処刑も大っぴらでした。強制収容所を海外メディアに公開しました。サラエボを包囲したセルビア人武装勢力のスナイパーが「ゲーム」ででもあるかのようにサラエボ市民を狙撃する映像も広く知れ渡りました。それをセルビア人側が望んだからです。なぜ望んだのでしょうか。
セルビア人の“最終目的”はイスラム教徒のいないボスニアを作ること、すなわち、“民族浄化”でした。それには二つの方法があります。皆殺しにするか追放です。しかし、もっと都合の良い第三の方法があります。それはボスニアに住むイスラム教徒に自ら出て行かせることです。
そのために、“恐怖（パニック）”を使ったのです。“恐怖（パニック）”に駆られてイスラム教徒が逃げ出すこと、これが彼らの狙いでした。スルプスカ共和国の初代大統領カラジッチは精神科医で詩人でした。アメリカ合衆国で精神科医としての訓練を受けたこともあります。“恐怖（パニック）”に駆られた時の人間の行動について熟知していたのでしょう。この方法に従ったために、多くの映像と多くの証言者が残りました。
包囲されたサラエボ市民もそのことをよく理解していました。だから、子供たちのサラエボ脱出には賛成しても、サラエボ市民の脱出には賛成せず、生命を危険にさらされながらもあえてサラエボに踏みとどまったのです。
朝鮮民主主義人民共和国の指導者金正恩はスイスで教育を受けています。どこまで状況を把握しているのか分かりませんが、同じようにミサイルと核兵器に対する恐怖によって、大韓民国と日本、それにアメリカ合衆国を屈服させようとしています。どうなるのでしょうか。金正恩が勝利を目指すなら、在韓米軍と在日米軍の基地、それにグアムの米軍基地を先制攻撃するでしょう。やけくそでインパクトだけを狙うならソウルと東京、それにもし可能ならニューヨークを狙うはずです。東京に水爆が落とされる日が来るのでしょうか。
2017年10月13日記

ポトチャリ(wikipedia)の祈念室に掲示されていた写真です。南北が逆になっていて、上が南でスレブレニツァ方向、下が北でブラトゥナツの方向です。"White House"は多くの虐殺が行われた現場です。現在墓地になっているのは、"UN Base"の前です。
この写真の撮影日は1995年7月13日になっていますが、この直前、7月8日ころからセルビア人勢力はスレブレニツァ中心部に侵入を開始、7月11日には完全に制圧しました。スレブレニツァ市民と各地からの難民は約6キロ北のポトチャリの国連軍（オランダ軍）基地にトラックで、または徒歩で避難しました。この間にも、虐殺、放火、レイプが続きました。
基地の前の道路に車両が見えますが、これは移送のためのバスのようです。

同じ場所のグーグルの最新衛星画像です。同じく上が南です。気付いたのは、周辺の耕地が非常に狭くなっていることです。JICAのサイトでも触れられていますが、農業が生活基盤であるにもかかわらず、その農業が崩壊状態にあることが、この衛星画像からも分かります。

スレブレニツァ虐殺祈念館の墓地の入り口です。バスは目の前に停まってくれます。サラエボ東発スレブレニツァ行きのバスはスルプスカ共和国のいくつかの町を経由して、Bratunac、Potočari、Srebrenicaの順に止まります。

正面右に掲げられています。この場所の最大の出資者は虐殺の常習国家アメリカ合衆国です。

多くの町からの難民が犠牲になったことが分かります。
犠牲者数が8372人となっているのは、死者と行方不明者です。現在も続けられているDNA鑑定で身元が確認でき、遺体の一部が埋葬できるレベルに達すると、毎年、7月11日にここに埋葬されます。
この奇妙な言い方には理由があります。セルビア人勢力は遺体をまず適当に埋葬し、おそらく戦争犯罪の隠蔽のためでしょうが、掘り返して他へ移し、また掘り返して他へ移すということをやっています。そのために、ある人のある一部がある場所で見つかり、他の一部が全く離れた場所で発見されるということがしばしば起こっています。これはナチスドイツもやっていることで、戦争犯罪は犯罪の一類型であることが良く分かります。

犠牲者の氏名と生年が刻まれています。没年は全員1995年です。

1995年7月12日、20,000人から30,000人もの難民がポトチャリに集まっていました。成人男性の10,000人ほどは既に徒歩でトゥズラへと脱出を図っていました――生存者は2,000から3,000人――が、まだかなり多くの男性が難民に含まれていました。セルビア人民兵は、難民の中から男性を見つけ出しては、"White House"の裏や近くの茂みへと連れて行って射殺しました。これらの映像も残されており、ICTY（旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷）で証拠として採用されています。また、多くの犯罪がオランダ兵の目の前で行われ、彼らは後にICTYの証人台に立ちました。セルビア人民兵には民族浄化が犯罪であるという自覚はありませんでした。

祈りの場所です。犠牲者は全員イスラム教徒です。トルコ共和国の寄贈だと書かれていました。バルカン半島にイスラム教徒が多いのは、かつてオスマントルコの領土だったからです。オスマントルコ帝国内には、イスラム教徒でなくても能力があれば出世できるシステムがありました。ただ、イスラム教徒には人頭税が免除された影響で、多くの人々がイスラムに改宗したのです。現在のトルコは、EUに加盟し、トルコをヨーロッパ化するという夢は断たれました。エルドアン大統領の強権化、クーデター未遂事件とその後の人権弾圧などの結果です。
それでも着々と影響力を拡大させるためでしょう、マケドニアの首都スコピエでは古いモスクの修復の援助をしていましたし、サラエボには大量のトルコ人観光客がいました。それがいけないとは思いません。ただ、トルコ国内の貧困や差別の問題が先決ではないかと思うだけです。
また、トルコには1915年から16年に、100万から150万人のアルメニア人を虐殺したという歴史があります。納得できかねるのは私だけではないはずです。もっとも私は日本人ですから、虐殺に関して口を出す資格はありません。

ずらりと墓碑が並んでいます。アルジャジーラ制作の動画をご覧ください。

道路を挟んで向かいに何かの廃工場があります。元は何だったのか、現在、調べていますが、まだ分かりません。スレブレニツァには鉛、亜鉛、銀、金の鉱山があったそうです。精錬工場のようにも見えます。

“スレブレニツァ祈念室”となっています。

部屋に入ります。

工場だった頃の名残の設備が少しありますが、何かは分かりません。50メートル四方ほどの広さです。youtubeで“スレブレニツァの虐殺”関連の動画を見ると、必ずこの工場内部が難民であふれかえり、オランダ兵が必死で対応している様子が出てきます。

壁に掲げられた写真を一枚一枚見ていると、気分が悪くなってきます。正常な反応でしょう。中には首を吊った女性の写真まであります。緑の写真がそれです。

10歳くらい以上の男性をすべて殺すために、選別作業が行われました。写っているのは女性と子供だけです。小さな子供と女性たちは難民としてイスラム教徒側に引き渡されましたが、従軍可能な年齢の男性は一人もいませんでした。トゥズラまで徒歩で逃げ切った僅かな人数を除けば、全員が殺されたことになります。

生々しい銃弾の痕が残されています。

「歯がない？」「ひげ？」「大便のような臭いがする？」「ボスニアの女の子！」こんなことを書いた人間が何を考えていたのか理解不能です。
現在、イスラエルでは、パレスティナで行われているイスラエル軍およびシオニストによるパレスティナ人の人権侵害によって、パレスティナ人が人間であること自体を否定する意識構造が作られつつあります。
ほとんどの人間は状況に流されてとんでもないことをやってしまうものです。

ラドヴァン・カラジッチ(wikipedia)にだけ“有罪”の文字があります。これは、2016年3月24日、ハーグに置かれたICTY（旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷）が、大量虐殺の関与、投獄や人道に反する罪で禁錮40年を言い渡したことによります。オランダ、ハーグの刑務所にいるはずです。
2019年3月21日のニュースによれば、オランダ・ハーグの「国際刑事法廷メカニズム」(MCIT)は、2019年3月20日にラドバン・カラジッチ（Radovan Karadzic）被告（73）に対して終身刑の確定判決を言い渡しました。
スロボダン・ミロシェビッチ(wikipedia)は同じ法廷に提訴され、収監後、審議中に獄死しました。
ラトコ・ムラディッチ(wikipedia)は同法廷で、2016年12月7日に終身刑が求刑され、2017年11月22日、終身刑の判決が下されました。また、2017年夏には、同法廷はオランダ軍にも“有罪”判決を下しています。状況の厳しさは理解するが、虐殺を防ぐためにできることがあったのではないかということです。なお、EUには死刑制度がありませんので、国際法廷では終身刑が最高刑です。
また、「フォチャ」"Foča"で内戦中に起こった組織的レイプについても三人の実行犯に有期刑の有罪判決が下されています。その他の戦争犯罪に対する審理は進行中のものも含めてたくさんあります。ボスニアの内戦はまだ終わっていないのです。

外に出て、この場所の正面入り口に向かいます。自動車での訪問はここが現在も正面入り口になります。

墓地の敷地も広いですが、道路を挟んだこちら側の方が広いです。
国連はこの場所を含めてスレブレニツァを安全地帯に指定し、オランダ軍がここに基地を置いて安定化部隊の任務についていました。そのため、スレブレニツァ陥落後、多くのイスラム教徒がここに逃れてきたのですが、オランダ軍はセルビア人勢力の圧力に屈して、イスラム教徒の男性をセルビア人勢力に引き渡しました。まさにここでイスラム教徒住民の選別、女性たちの移送が行われたのです。

中央に見える黒い像は、イスラム教徒女性の慰霊碑です。この正面の建物がオランダ軍の基地として使われました。右奥に新しい建物（後述）が見えます。

いくつか上の写真の新しい建物の入り口の掲示です。「国際社会の失敗」の文字は、スレブレニツァの虐殺に関してほとんど報道されなかった日本人の良心を突き刺します。youtubeで"Srebrenica"あるいは“スレブレニツァ”を検索して、動画をご覧ください。とんでもない事件が起こったのです。それもそれほど遠い昔ではありません。

左端にオランダ軍が土嚢で作った見張り所が見えます。その右、灰色の屋根の建物はこの敷地の外にある工場です。何を作っているのか分かりませんでしたが、稼働していました。右の青い建物は、この敷地を管理している事務所です。どういう団体が管理しているのか、まだ調べていません。

放置されているようです。

登ってみました。禁止はされていません。ここは国連によって「安全地帯」に指定されたので、この場所にセルビア人支配地域から逃れてきた難民が集まりました。その様子は想像することさえ困難です。ただ、youtubeで見ることができます。

道路の左が工場のある側、右が墓地のある側です。この道路をまっすぐに6キロほど進めばスレブレニツァの町です。

ポトチャリを出るとすぐに道路の左側――スレブレニツァからなら右側――に使えなくなったバスが10台あまり放置されていました。イスラム教徒の女性を移送するのに使ったバスではないと思いますが、見た時は驚きました。

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