2017年 ベオグラード

セルビア共和国の首都ベオグラードにやってきました。ヴコヴァルからベオグラードへ鉄道で行くためには、Vinkovciで乗り換えなければなりませんし、ベオグラードまで行く列車は一日に一本しかありませんから、バスが通常の交通手段です。国境を越えますが、2時間40分ほどで着きます。体調が悪かったので、バスの中でぼんやりしていて、国境審査の記憶がありません。パスポートにはスタンプがありますから、国境をちゃんと越えたはずです。
ボスニア・ヘルツェゴビナ連邦やクロアチアでは評判の悪いセルビアですが、日本との関係は良好です。駅前のホテルに二泊しましたが、すぐ近くに政府機関があります。セルビア共和国政府機関の駐車場に入ろうとしている“レクサス”がいたので見ていたところ、助手席の男が「こんにちは」と私に言いました。“レクサス”には日本からの寄贈品であることを表わすステッカーが貼ってありました。
これはまずいと思います。セルビアはEUへの加盟を拒否され続け、大変厳しい経済状況にあります。2015年か2016年に、ドイツ人に腎臓を売るセルビア人がいるというニュースを見たこともあります。腎臓を売る話はフィリピンの刑務所の囚人くらいしか聞いたことがありません。
厳しい経済状況のなかで高級車に乗る役人は一般の市民から憎悪の眼で見られるのは当然です。その憎悪がプレゼントした日本政府に向かう危険に気付かないのは、日本政府関係者、特に外務省とその外郭団体の人々の高慢さを表わしています。
かつてコソボでは、日本から贈られた仮設住宅と上水道設備の礼を言われたことがあります。一般市民、あるいは貧しい人々の助けになるようなもの、例えばかつてのようなバス――日本政府はボスニアと同じようにセルビアにもバスを寄贈したことがあります――のようなものを寄贈して、助けるべきです。一部の高級官僚におもねることで利益が得られるという感覚を捨てて、市民に感謝され支持されるための方策を講じるべきだと考えるのは、私が貧しいからでしょう。
ところで、サラエボ、スレブレニツァ、ヴコヴァルでセルビア人の残虐行為を見てきたのだから、セルビア人を《怖い》と感じるのではないかという疑問があるかもしれません。確かに、《怖い》です。が、それはセルビア人だから怖いというわけではありません。スレブレニツァなどで残虐行為を行ったのは、セルビア人のすべてではなく一部です。サッカーチームの熱狂的なファン、いわゆるフーリガンなどであったことが分かっています。フーリガンにはベルリンやプラハでも出くわしたことがありますが、極めて暴力的で《怖い》です。ベオグラードでも、ベルリンでも、「さいたま」でもフーリガンに出会えば避けます。しかし、普通の人たちが普通の状況にあれば怖くはありません。
日本人も残虐な行為をしてきたことは誰でも知っているとおりです。だからと言って日本人を怖がることはありません。それと同じです。今回は、ベオグラードしか行っていませんが、これまでに旧ユーゴスラビアでは、ボスニア・ヘルツェゴビナ、クロアチア、マケドニア、コソボに行きました。親切にされた経験はありますが、《怖い》と感じる経験はまだありません。嫌な思いをさせられたこともこれと言ってありません。クロアチア人は確かにヤセノヴァツでセルビア人やユダヤ人、ロマの人々を虐殺しました。セルビア人はスレブレニツァで、ドイツ人は……、日本人は……などなど、いくらでも列挙できると言っても良いでしょう。しかし、それでもやはり、「人間は」という風に安易な一般化はできません。
特定の状況に置かれた人間が残虐性を発揮するのは確かです。ですから、特定の状況とはどのような状況なのか、その状況を避けるにはどうすればよいのか、あるいはどのような状況下でも残虐性を発揮しないためにはどうすればよいのか、それが課題なのだ、と考える次第です。

ベオグラード駅東口です。新しい中央駅を建設中ですが、資金不足で頓挫しています。古い中央駅が今も使われています。 こちらは北口です。БЕОΓРАДはラテン文字を使うとBEOGRADになります。 БАСはBASに当たります。ベオグラード鉄道駅の北西にあるバスターミナルです。 バスターミナル前にある安そうなホステルです。私は東駅の正面にあるビジネスホテル"Belgrade City Hotel"に2泊しました。 ベオグラードの郊外に"Muzej banjičkog logora (Museum of the Banjica Concentration Camp)"（日本語のページはありません）(wikipedia)がありますので、そこへ行くことがベオグラードに来た目的のひとつだったのですが、いつ開いているのか分かりませんでした。 ベオグラードに着いたのは土曜日でしたが、土曜日の午後は開いているとグーグルマップにはありましたし、"Museum of Banjica concentration camp"のウエブサイトにも、土曜日の午後5時まで開いているとあったのですが、それとは違う記述をどこかで見かけたので、分からなくなってしまっていました。ホテルのフロントから博物館に電話してもらったのですが、誰も出ないということで諦めざるをえませんでした。体調もまだ万全ではありませんでしたから、次回のための宿題になりました。 なお、宿泊したホテルのレストランもおすすめです。老人のウエイターと若いウエイトレスがいましたが、若いウエイトレスに頼めば体調に合わせた料理を準備してくれました。他方、老人のウエイターは、私が体調が悪いと言っているのに、食後にブランデーやウイスキーを勧めるなど意味不明の老人でした。ボケてきているのかも。 看板があったりするわけではないのですが、アメリカ軍に空爆された“ユーゴスラビア連邦共和国内務省”のビルです。このビルが放置されているのは、ユーゴスラビア連邦自体が存在しないので、もう必要がないからなのか、単純にお金がないからなのか、観光資源になると考えているのか、まったく分かりません。 コソボ紛争をめぐるこの空爆はアライド・フォース作戦(wikipedia)と呼ばれ、当初は軍事目標に絞って空爆が行われましたが、徐々に放送局や列車、変電所、さらに中国大使館も空爆され、一般市民を故意に殺してはならないという国際法に抵触する、いわゆる戦争犯罪に当たる行為に及びました。もちろん、アメリカ合衆国当局者が戦犯法廷に呼び出されたりはしていません。アメリカ合衆国もたまには空爆される側に立つのも良い経験になるかもしれません。 鉄道駅から向かうと通りの左側です。 こちらは通りの右側です。 聖サワ大聖堂です。ソフィアのアレクサンドル・ネフスキー教会に似ていなくもありません。建築様式は似ていますが、こちらは規模も小さく、おまけに中に入るとわかりますが作りかけです。 内部は工事中です。これでは信仰の対象になりそうもなく、うれしい限りです。その代わりに観光資源にもなりません。 ベオグラード中心街しか歩いていませんので、セルビアの貧しさを実感する場面はありませんでした。これは聖マルコ聖堂ですが、こういう場所の門前には乞食がいます。そういえば、サラエボやモスタルには多くの観光客がいるのに乞食を見かけませんでした。イスラム教の文化としては、施しをすることは天国の入場券を手に入れることですから、乞食は堂々としているのが普通です。サラエボやモスタルにはトルコからの観光客が多いのですから、乞食がいないのははなはだ妙ではあります。今回、やたらと多くの乞食がいたのは圧倒的にプラハです。とにかくたくさんいました。あれほど多くの乞食は見たことがありません。 聖マルコ聖堂内部です。祈っている人はいましたが、日曜の朝に説教があって、というようなことは行われていないようです。信者のための椅子がありません。せいぜい結婚式場として使われているだけのようです。良いことです。

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